空きっ腹に海苔

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辛さを抱えて幾星霜

この一年その味を追い続けているカレーがある。一口目に甘くて後からひたすら辛い大阪の某有名カレーだ。初めて口にしたのは学生のころ10数年前の話だから、いつか作れるようになることを思い描いていたことを思うと自分も何と気の長い人間であることか。よ…

慣れるより習え

あるのは知ってるけど、わざわざ食べへんよなあ、と思うメニューが自分には結構ある。和食でいうと豆や昆布のような乾物、ごま豆腐とか茶碗蒸しとか。洋食では、ゼリー寄せやテリーヌとかはあんまり得意ではない。伝統的なおせち・弁当や、クラシックなビュ…

目を閉じて吠える

自分が得た知識と経験をもとに即座に断言ができるのは、自分が直接目で見てかかわったことについてだけである。いつかもわからない昔からそういう考えが自分の思考の中心を占めている。そのせいであらゆる議論の場で悶々としてきた。言い返すのにふさわしい…

記憶をたしなむ

土の味がするようで、苦手だった野菜がある。筆頭は里芋。他にはごぼう、にんじんにも土を感じていたし、じゃがいもも、茹でただけの状態のをそのまま口にするのは土臭くて苦手だった印象がある。 アスパラ、ブロッコリー、カリフラワーあたりの草っぽい匂い…

スリルが絶望に変わる前に

醤油の安心感は、ときに敗北の味でもある。日本人にとって、親しみのある懐かしい味とは何かといえば、醤油、味噌といった基礎調味料、鰹節、昆布といった風味原料、刻みネギや漬物の芳香、塩鮭や干物の焼ける匂いなど、昔からの食生活に組み込まれた味がそ…

粘膜に忍び寄る不安

歌で言うなれば夏も残すところ8小節ほどとなり、9月の台風が猛り狂う予感を示す東京で風邪をひいていた。朝、元気にジョギングをして、着替えて電車に乗り、事務所についたころまでは良かった。ものの1時間もしないうちから悪寒、更に1時間で震えと関節痛。…

胃袋(の安心)を買いに

8年ぶりに胃カメラを飲みに行った。わざわざ「飲む」という言い回しが、なんとなくえらぶっているように感じなくもないけれど、あれは文字通り喉から食道へ進む際に「ちょっと飲み込んでください~」と声をかけられるし、そうしないといつまでも喉の奥で留ま…

パン粉が目に染みる

先週とあるエビに謝罪をした。あのエビは、私を赦してくれただろうか。 その昔、海や港の近くならいざしらず、スーパーに並ぶエビ、お惣菜に使われるエビはだいたいブラックタイガー一強という印象だった。しかし、少しスーパーを見てもらえればわかるとおり…

繰り返す無いものねだり

10ウン年振りに炭火をおさらいしようと七輪に向かい合うこと数週間。改めて炭の楽しさを味わった。それにしても火起こしから逆算すると、家庭用の少量でも一時間弱は前もって準備が必要だから空腹には堪える。 着火の問題をクリアしても、焼いている間の煙が…

せっかちの瞳に映らない色

あまねくすべての料理は常に出来たてが最高においしい状態だ、と信じていた。そうとは限らないということを理解したのは、ごく最近のことだった。猫舌なので、自分は最高においしい熱々の状態を味わえない不幸な部類の人間だと思っていたくらいである。 行列…

味とスリルと安全と

とあるフレンチ技法の本を通読していたときのこと。「ポトフ」といえば一般的にセロリや人参やじゃがいもやを肉と一緒に煮込んで作るものだと思うのだが、その筆者である料理人曰く、日本の野菜は味がなく甘ったるいので肉だけで作るのがよいと。何でも、ヨ…

鍋が取りもつ色濃い沙汰

1時間、2時間と煮込んで煮込んで、なかなか柔らかくならない肉が、ちょっと目を離したすきに、柔らかくなっている。その瞬間、急にその肉のことが愛おしく感じられてくるから不思議である。さっきまでは、よそよそしいほどの弾力で箸を払われていたのが、…

この夏いちばん熱い油脂

夜こそ揚げ物が食べたい。近年糖質制限というキーワードで油より炭水化物が悪者にされがちだが、重量あたりのカロリーでいえば油は炭水化物の倍なんである。ぶっちぎりだ。 なぜ揚げ物は油でないといけないのか。水で揚げ物はできないのか。揚げ物とは高温の…

肉汁のやり場に困れ

せっかく水気をしっかり含んだいい肉だったのに、切るタイミングを間違えたようで、カットした瞬間肉汁が流れ出してしまった。 焼き固めてじっくり加熱した赤身肉は風船のように張ってくる。こういった場合は無理にステーキにせず冷まして薄くスライスしても…

粉物ローカライゼーション

流行とは対象が本来広く持ち合わせる多様性を否定する現象でもある。讃岐うどんが流行ったときに我々は歯ごたえのないうどんはうどんではないかのように振る舞ったではないか。 ラーメンとて、博多とんこつの細麺が流行れば、とんこつに関係のないラーメン屋…

暇でもないのに暇潰し

自分だけかもしれないがGW期間といえばなぜか、毎年、猛烈に「新しいこと」に触れたくなるのが風物詩だ。だいたいは音楽、本、習慣、などである。そもそもGWにまとまった連休を取ることがないので毎年出勤が基本、しかし天気もよく、人混みのストレスもない…

ナイアガラに焼け石

「無いよりはマシだけど明らかに足りない」状態ほど質の悪いものはない。しかしながら注意していてもこれに出くわすこと、または自らがこれに陥ることがままある。 塩気の足りない焼き鳥、中途半端に砂糖を入れたコーヒー、カツオや昆布をケチったダシ、等々…

焼き鳥と躾

世のお母さんたちはどうやって子をなだめあしらう術を身に着けていくのだろうか。 客は七輪を前に、いわゆる焼肉スタイルで、鶏肉を供するすこし珍しい店であった。まだ塩が粒だっている様子、タレと肉のなじみぐあいを見るにつけ、厨房では大将が一皿ずつ肉…

大根が煮上がって春

これがこの冬最後のおでんだ、と思いながら大根の端を箸でさくっと割る。味がしみていながら、断面が切りたてのようにまっすぐした大根に出会えることは冬の幸せの一つである。 そんな大根は、実にお行儀よくすとん、と箸が入ることを知っているので、こちら…

(気持ちが)若返り系ランチ

素直に目の前の食べ物を、心から楽しんで食べることができたのは何歳までだっただろうか。ただただ、好物をお腹いっぱい詰め込んだ幼少時代。それは無垢がもたらす幸せであった。 やがて、認識できる世界が広がる。知見があってこそ、より味わい深いものに出…

脂・糖でトリップ

あんことバターの組み合わせが好きである。バターの部分はホイップでも練乳でもいい。乳脂肪と砂糖とあずきの相性は、味も香りも色合いもあらゆる点で世に語られる相性の平均値を超えているという確信がある。 その佇まいの魅力は、決してぴちぴちとした若々…

いま、食いにゆきます

好きなミュージシャンのプレイリストを作るような気分で食べたいメニューを選んでいる。じっくり聴き込みたいもの、BGMに流したいもの、旅行先や移動中などの場所、季節や時間に合わせたいもの。また、一人で聴くためなのか、一緒に誰かと聴くものなのか、広…

錯視と小銭

卵の個数差で人はどこまでお金を出せるのか。カツをとじる卵の個数で価格が変わるカツ丼は初めて出会った。卵が増えることで丼の上にもたらされる幸せが、ぱっと思いつかなかったが、その字面に脳と体が反応し、「並盛り卵二個+赤だし」を注文してしまった…

モツを動かす

ホルモンは、生まれたときから内臓というハンデを背負っている。生きている間も不随意筋として主となる生き物の消化活動を休みなく処理し続け、ときにガンや潰瘍といった病に襲われながらも老廃物にまみれてその一生を全うする。 随意筋である筋肉=赤身の面…

圧縮しない勇気

うどん店で、つきだしに牛タン。おそらく塩煮込み、もつ焼き屋ではゆでタン等と呼ばれるものだ。まず出汁を一口。節や煮干しがしっかりと匂い立つ。しかし二口目からは塩っぱく感じられ、正直面食らった。 しかしながら、あくまで料理の主役は出汁ではない。…

若きトリ肉の悩み

鳥千 府中 https://tabelog.com/tokyo/A1326/A132602/13118688/ 愛され体質、という言葉があるが、バナナは果物における愛され体質の白眉であろう。優しい甘み、歯も生え揃わぬ乳児でも噛める柔らかさ、皮が剥きやすく、マットな質感と程よい厚みの皮が指を…

境界の渚にて

漆の実 金沢 https://tabelog.com/ishikawa/A1701/A170101/17004976/ 自分は字が汚い。小学生くらいのころに、きれいな字でなくてもいい、丁寧に書きなさい、と親や先生に言われた。しかし自分はその丁寧という感覚が、わからない子供だった。ゆっくり書くこ…

トリックフリーな一年

喜はな 金沢 http://www.ki-hana.jp/ 今年は一年の中に巡り表れる季節の違いと降り立った土地をなるべく意識した食事をすることにしたいと思った。この数年、仕事を通じて各地に同じような中身のSCやモールが次々と建っていることを実感して、現代が一年を通…

多湿に強い味

今年最も記憶に残った食事の一つはベトナムの街角で夜中に食べたフォーと焼き飯だった。タクシーでたどりついたのは、十字路の角でわずかな蛍光灯しか照っていないコンクリの薄暗いガレージ的な場所で、調理台と鍋とまな板、野菜と肉と麺が常温で放置された…

おぼれる舌

ナチュラ マーケット 武蔵小杉 NATURA MARKET | NATURA group 右手に箸、左手にご飯。この定食スタイルで始まる晩飯から長らく遠ざかっている。たいていの場合ビール等アルコールを飲みながら食事を始めるためで、月に2日以上空けることがない。アルコール…