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圧縮しない勇気

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うどん店で、つきだしに牛タン。おそらく塩煮込み、もつ焼き屋ではゆでタン等と呼ばれるものだ。まず出汁を一口。節や煮干しがしっかりと匂い立つ。しかし二口目からは塩っぱく感じられ、正直面食らった。

しかしながら、あくまで料理の主役は出汁ではない。煮種を口に含むと、タン特有の鉄赤い肉臭さに、凝縮された魚の香りが絡みついている。その2つの匂いに負けない塩気が、舌の脇からどっぷりと唾を湧かす。すべて解け合い、飲み込んだあとに残る余韻、満足感は、このたった10g程度の肉塊を味わっただけのものとは思えない。

おでんの味も、色の濃さ以上だ。渋いほどの醤油感、しかしそのアク強さを支えるだけの出汁の強さ、甘み。味を吸わないこんにゃくが、表面の水分と引き換えに味を吸い込んでいるのがその質感からわかるほど。

匂い、香りの強さに拮抗する味の強さというのが存在する。チューインガムやファンタのような、開けた瞬間立ち込めるような抑揚のないフルーツの匂いは、実際の果物にはない。果汁100%のジュースでも、いまや濃縮還元だと多くが香料が添加されているようなものだから、刺激が足りないと実物が作り物に売り負けるのかもしれない。

記号的に再現すれば、食べ物の匂いは表面上はおいしそうに感じる。しかしそれはあくまで上面のものであって、バニラビーンズのようにわずかなら惹きつける香りも強すぎるとむせるようなものや、繊細すぎてすぐ消えるもの、時間とともに臭くなるもの、ゆずやすだちのように香りは鮮烈でも果汁は酸っぱくてそのまま食べられないようなケースもある。いいとこばかりではないんである。そういう個性とつきあいながら楽しむのも食生活の一部だと思う。

最初強すぎると思ったこの店の味は、食べ進むうちに素材が持つアクの強さを手懐けたような、その抑揚や長所短所を味わいで拮抗させた末のうまさなのだと感じた次第。野菜そのものの味、うどんの食べごたえにも、その様子が現れていた。

 

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一滴八銭屋 新宿

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