焼き鳥と躾
世のお母さんたちはどうやって子をなだめあしらう術を身に着けていくのだろうか。
客は七輪を前に、いわゆる焼肉スタイルで、鶏肉を供するすこし珍しい店であった。まだ塩が粒だっている様子、タレと肉のなじみぐあいを見るにつけ、厨房では大将が一皿ずつ肉を大事に味付けし盛り付けているであろうことがわかる。
鮮度のよい鶏肉は水分が失われていないので、火の通りが柔らかく、ふんわりさっくりとした噛みごたえが楽しい。レバーも爽やかな香りで甘さが勝つほろ苦味が心地よい。たまり醤油のような黒さのタレは、勝手な印象だが関東風か。すがすがしくあとをひかない塩辛み。江戸っ子は食べ物に余韻を求めないのかもしれないと思った。
さてここの店で給仕をされるのは皆お母さんくらいのご婦人方だ。そこまで広くはない店内で、テンポよく席を詰めさせ、余計な荷物をまとめさせる。おすすめメニューをちゃっかり入れ込みながらも、食べる量を気遣ってくれたりもし、2時間きっかりに退席をせまる。平日の朝食時のごとく、お母さんたちはてきぱきと客たちを捌く。
きっと、聞き分けの悪い客にはちゃんと叱ってくれるに違いない。そんな安心感。
やがて満腹となり、いってらっしゃいと言われた気がして店を出た。
鬼亭 渋谷