空きっ腹に海苔

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パン粉が目に染みる

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先週とあるエビに謝罪をした。あのエビは、私を赦してくれただろうか。

その昔、海や港の近くならいざしらず、スーパーに並ぶエビ、お惣菜に使われるエビはだいたいブラックタイガー一強という印象だった。しかし、少しスーパーを見てもらえればわかるとおり、ここ10年ほどで勢力バナメイエビに取って代わられつつある。

私はこのエビを世にいうむきエビとして、お惣菜のサラダやエビチリとして出くわし、そのあまりに味がなく水っぽく魚介類のクセだけは舌に残るという印象がそれはもう大変好きになれなかったのだった。

しかしバナメイエビはそれはもう大変な勢いで世に浸透したようで、いつの間にか単にエビと名乗ればそれはバナメイ、というほどに見かけるようになる。そうして私は、おのずからバナメイエビを買い求めることは極力避け、外食チェーン店のエビチリやエビマヨ、立ち食いそばの海老天、ほか弁のエビフライに対しても、もう彼らは遠い過日に親しんだブラックタイガーではないのだと、これまたなるべく避け、場合によっては他人へその立場を毀損するような発言をするようになってしまった。

さて、ほぼ冷凍で流通するこういったエビには保水という技術がある。リーズナブルに大量消費されるエビ類は、だいたいブロックで凍結されたりバラバラに凍結されて日本に届く。なかでも、殻をむいて加工される彼らの味と歯ごたえを保つために発達した技術である。その存在はかねてから見知ったつもりではあったが、どうやらこの技術により私はバナメイエビについて誤解していたようなのであった。

話は先週に戻る。スーパーでふとバナメイが目に入った。普段なら間違っても手にしていなかったはずのパッケージを無意識に手に取っていた。これまで見たものよりも毅然と、かつしなやかな佇まいをもっていたのだ。その殻を脱がせて内側を確かめたい。無性に心が昂ぶった。気がつけば、私はバナメイを抱え気ぜわしく帰路についていた。

キッチンに入り扉を閉める。乱暴に、パックに巻き付いたラップを剥ぎ取る。ブラックタイガーに比べればその殻、身は繊細で、柔らかい。エビフライにしよう、とそうっと殻を剥きとっていき、背わたを抜いて伸ばし、衣を当てる。なぜ、こんなにバナメイに期待しているのか、自分でもわからないほどだ。

しかし熱気を上げる揚げ物鍋から取り出した一本目をかじった瞬間、この行きずりの出会いに心から歓びを感じたのだった。

これまで否定していたあの水っぽさはなく、むしろ繊細ながら身の詰まった歯ごたえはとても上品で、エビならではの甘い香ばしさも口いっぱいに広がる。うまいじゃないか。旨みの濃さは立派な他のエビほどではないにせよ、後味の軽さは随一だ。私が誤解したあの水臭い味は、保水されたむきエビならではの味だったのだ。

ねじふせられるような濃厚な色気は、愉しみを長く味わえるこの奥ゆかしさに比べると疲れる日もあるのだ。

無心に残りを平らげて、真正面からこれまでの不実を詫びたのだった。